防衛研究所の小谷賢氏から新著をお送りいただいた。書名はずばり『インテリジェンス』(ちくま学芸文庫)。本書については原稿段階で拝読し、若干のコメントをさせていただいていたが、その時点で「これはいい本になるだろうな」と思っていた。こうして端正に仕上がってみるとなおさらその感を深くする。
小谷氏も言及されているが、昨年わが国では、米国におけるインテリジェンスの定番教科書、ローエンタール『インテリジェンス−機密から政策へ』の翻訳が茂田宏氏の監訳で出版され(慶応義塾大学出版会)、また同書の枠組みを咀嚼した日本の初学者向けの教科書、小林良樹『インテリジェンスの基礎理論』(立花書房)が刊行されている。この二冊は米国流のインテリジェンスの理論を学ぶための好著であるが、小谷氏の新著は、こうした理論をしっかりふまえつつ、歴史の中からふんだんに素材を盛り込むことで、インテリジェンスを身近に感じにくい日本の読者にとってもその具体的な像を結ぶことを可能にしている。抽象と具体の絶妙なブレンドは、高坂正尭先生の名著『国際政治』(中公新書)を思わされるところがあり、原稿一読小谷氏にそう伝えたところ、まさに同書を目標にしていた由。目指したがかなわなかったと謙遜されていたが、十分その志は遂げられているのではないか。
小谷氏とはロンドン大学留学以来のお付き合いである。同氏はその当時からインテリジェンスを歴史的に研究していた。その成果は、『イギリスの情報外交』(PHP新書)として結実している。私が政策的な観点からインテリジェンスについて研究するようになった出発点は小谷氏らと行った研究プロジェクトだが、小谷氏との縁がなければ、このプロジェクトを開始することはなかったかもしれない。
キワモノ扱いされがちだったインテリジェンスについて学術的に研究する土壌が日本に生まれ、また、現実社会でも、インテリジェンス機能強化への政治の関心が高まっている中で、この良書が発刊されたことを喜びたい。なお、昨年末には、主要国のインテリジェンス・コミュニティを概観した『インテリジェンスなき国家は滅ぶ−世界の情報コミュニティ』(亜紀書房)も出版されており、小谷氏がイスラエル、私が日本の章を執筆している。かつてPHP研究所から出版して好評を得た『世界のインテリジェンス』を大幅に改稿し、さらに日本周辺の中国、韓国、台湾の章を加えた一書である。あわせてお読みいただければ幸いである。
研究員ブログ