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中国コラム
第27回「尖閣問題で示された中国の揺らぎ」
国際戦略研究センター主任研究員 前田宏子
9月に発生した尖閣諸島をめぐる日中間の摩擦は、両国政府がそれぞれ政策決定過程に問題を抱えていることを露呈した。日本政府の対応のまずさについては、すでに多くのところで指摘されているので小欄で長々と繰り返しはしないが、菅政権の対応には戦略性も一貫性も欠けていた。中国人漁船乗組員らを早々に強制送還するか、中国人船長を略式起訴してから釈放するか、どちらかに徹底すべきであったろう。最近では、船長逮捕という決定を下したことに対する非難が強まっているようだが、中国の海洋権益に対する主張が拡大し、日本の領海や排他的経済水域にまで及ぶようになっている昨今、日本が唯々諾々とそれを受け入れるつもりはないという意志を示すのは必ずしも悪い選択ではない。ただその場合、中国がどのような対応を取ってくるか、日中間の軋轢をいかに収束させていくかというシナリオが最初に想定されていなければならない。また、中国人船長を処分保留のまま釈放するにあたり、その責任を検察に押し付けたことは、菅政権に対する国民の信任をより損なうことになった。
中国側も、今回の件では、これまでの対応から逸脱するような動きがみられた。歴史問題や政治問題が生じると、他の分野にまで直ちにその影響が及ぶのは中国の問題点の一つである。今回も、中国側は文化交流や東シナ海ガス田開発協議を含む政治対話の中止を決定したが、これらの措置は(正当であるか否かは別として)ある程度予測できた。しかし、レアアースの輸出規制は尖閣問題への報復としてはやり過ぎであり、中国政府の政策決定の合理性に疑念を抱かせるような措置であった。事実、それまでは尖閣問題に対して中立的、あるいはそれほど関心を示していなかった欧米メディアも、この件で一気に中国批判を強めることになった。
今回の尖閣問題をめぐる日中の軋轢では、両国ともに自国の利益を損なった。日本外交が勝利したわけではなく、中国が墓穴を掘ったわけだが、今後また同じ問題が起こったときに、日本が「尖閣に領土問題は存在しない」と一蹴し、日本の立場を説明しないことが、果たして良いのかどうかについては再検討すべきだ。日中関係を重視する中国人も「現に問題は存在するのに、あの態度はあまりに傲慢ではないか」と感じており、尖閣問題について詳しい知識のない外国人の眼には、あの発言が日本の偏狭なナショナリズムの表れのように映るからである。尖閣問題のこれまでの経緯や、日本政府がなぜ「領土問題は存在しない」という立場を取るのか、さらに日本国内における中国の海洋権益拡大の動きに対する懸念などを説明していくべきであろう。
最近、中国の外交が強硬になっている背景として、軍の影響力が強まっていることが挙げられる。2012年第18回党大会での新体制発足をめぐる権力闘争では、軍の支持を得ることが重要となる。また、江沢民がそうしたように、胡錦涛も総書記・国家主席の座を退いた後、中央軍事委員会主席の地位だけは維持することを狙っており、そのためにも軍の支持を必要としていると推測される。とはいえ、国際社会で中国脅威論が急速に高まっていることを受けて、中国政府も外交政策の再検討を行っていると言われている。
9月末と10月半ばに、上海で開催された国際会議に出席する機会があったが、参加した中国人研究者らの意見も様々で、中国国内における意見が収斂されていないことが伺えた。
強い中国を強調する立場としては、「中国の発展に伴い(海軍の)行動範囲も広がるのは自然なこと。アメリカの支配はよくて、なぜ中国はだめなのか」、「“韜光養晦”とは何もしないということではない。あれは“有所作為”という言葉と対になっているのであり、やるべきことは積極的に行うということである」という意見などが披露された。他には、「日本は海洋国土を拡大しようとしている」という見当違いな非難も見られた。これは裏を返せば、既存の日本の領海や排他的経済水域を否定することにつながる。
逆に最近の中国外交に対し懸念を表明する意見も多くみられた。例えば、「中国は国際社会から孤立しつつあり、いまや味方は北朝鮮だけ。なぜ中国脅威論が盛んなのか考え直す必要がある」「中国政府が公式に南シナ海を核心的利益と呼んだことはない」「中国の国力はまだ途上国段階にあり、発展のためには国際協調が欠かせない」という意見が示された。「強硬な政策をとれば、どのような結果になるかということを学ぶ良い教訓となっただろう」とまで言う中国政府関係者もいた。
中国民衆の間でも、意見の多様化が進んでいる。成都や西安で反日デモが起こったときも、少なくとも私が上海で会った中国人学生たちは「反日デモ?どこかでやってるらしいね」と大して関心を持たない様子であった。日本の新聞でも紹介されたが、例えば中国の若者たちの間で人気を誇る作家・ブロガーの韓寒は、反日デモを冷ややかに突き放すようなコメントを書いた。氏は、反日デモに参加する人々を、中国国内の様々な問題に対しては声を上げられないが、反日を叫ぶことには熱心であり、それと気づかず政府に踊らされている、と皮肉ったのである。若い世代にこのような見方をする人が増えれば、将来、日中関係のあり方は変わってくるかもしれない。
とはいえ、そのような若い人々の変化が政策に影響を及ぼすようになるのは、まだ当分先のことだろう。インターネット世論は中国の政策に影響を与えるようになってきてはいるが、広範な多数の意見より、特定の利益集団の意見の方が政策決定過程において重要な役割を果たすのは、どこの国でもまま見られる現象である。中国の国際的存在感が急速に高まり、社会も変化していく中、中国国内でも様々な意見が表明されるようになっているが、軍が政策決定に強い影響力をもつ傾向はしばらく変わらない可能性が大きい。2012年の党大会で、習近平が胡錦涛のあとを継ぐことは確定したが、首相の座については李克強副首相と王岐山副首相が競っているとも言われており、北京の知人からは「北京では、党総書記に習近平、国家主席に李克強、首相に王岐山という案も議論されている」という噂も聞いた。人事の話はどうなるかまだ分からないが、首相の座だけではなく、共産党の最高意思決定機関である政治常務委員会入りをめぐっても、水面下では権力闘争が繰り広げられているはずである。
中国が経済発展を維持するために平和的な国際環境を必要としているという条件は変わっておらず、党指導部もそのように認識しているはずだが、目下のところ、中国の政策決定過程は従来以上に読みづらい状況にある。日本にとって、安定した日中関係が国益に叶い、その維持のために努力するのが重要であることは言うまでもない。が同時に、日本は外交戦略を明確にして、中国国内の強硬派が冒険的衝動に駆られることを防ぎ、偶発的事故が起こった場合のシナリオをいくつか想定して、衝突を拡大させないための準備を怠らないようにする必要があるだろう。
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時事コラム
景気動向から見る総選挙のタイミング
政治経済研究センター
主任研究員:宮下量久
社会保障と税の一体改革関連法案が衆議院で審議入りした。消費増税反対を唱える与党内からの声もあり、本法案審議の難航が予想される。野田総理は法案成立に向けて「政治生命をかける」と発言し、国会審議の行方次第では衆議院解散・総選挙も辞さない構えを見せている。総選挙は本当に行われるのだろうか。景気動向からそのタイミングを考えてみたい。
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