| 「外交政策決定要因」5カ国国際会議 |
|---|
平間洋一
防衛大学校教授
要旨
ある国の歴史、風土、習慣が特定の価値観や思考環境に影響を与えるものである以上、その外交政策も、ある意味においてその価値観や判断基準に基づくものであると考えるのは自然であろう。唯物主義的決定論では説明し得ない、外交の精神的側面に対する研究は、画一的な外交研究に対するアンチテーゼとして、むしろ尊重されるべき分野でもある。ここでは、日本の外交的特質−そのあいまいさ、主張の無さ、そして時として訪れる、突発的で非理性的行動−を、日本の「民族性」の影響として捉えた。
日本「民族」の特色を表す最も良い言葉が、「言霊幸わう国」であり「言挙げせぬ国」である。前者は、人の発する言葉は、必ず何らかの影響を現社会に及ぼすという信仰から、また後者は、和を尊ぶ日本で、構成員と異なる個人の主張は和を乱すので排除されるべきであるといった思想からくるものであるが、日本の軍隊を自衛隊と呼び、憲法を平和憲法とことさら呼ぶのは、軍隊と直結する戦争のイメージを払拭し、平和を願う国民の総意が「言霊」信仰と結びついた結果と解釈することが出来る。また、外交の舞台で、日本側からはっきりとした政策が出されず、相手の反論にも対峙しないようなそぶりを示す傾向があることは、後者の「言挙げせぬ国」という思想が、背後にあるという指摘が出来よう。
日本の外交に影響を与えるもう一つの要因は、日本人の戦争観にある。表にあるように、「戦争が常態である」西欧諸国と違い、日本が経験した戦争は非常に少なく、特に外国の支配を受けたことは一度もなかった。これが歴史に裏付けられた戦争異常観となっている。戦争の危機の少ない社会では、強力なリーダーシップは不必要となり、むしろ複数の「部族」の代表による利益調整の必要から、合議制、皆の意見を調整する、いわゆる「根回し」を行う実務者が重要視され、リーダーシップの部分は、天皇という、実際にはリーダーシップを自ら発揮しない機能に昇華させた。よって、日本の政界のリーダーシップは、物事を決めるアクターにはなり難く、また、その任期も短くして、「根回し」を行うことにより調整者に権限を委譲することで和を保つシステムが主流となっている。
日本の外交に影響を及ぼすもうひとつの要因として、「女性国家」という概念に言及したい。日本がアマテラスという女性・太陽神を祭る多神教国家であるということ。つまり、価値観が女性的発想に基づく多元的なものであることと、日本の外交政策には、関連性が認められるからである。つまり、多元的な価値観を統合することなく、そのまま外交の場に出す日本外交の特質、また外交ソースが各省庁に分散している実態は、この多元的価値観の一側面として説明できるし、またこの多元性ゆえ日本では強力な対外政策が不可能な政治的土壌が存在するという説明も可能である。
第二に、日本外交が、強力な指導力を持ち得ない裏には、理屈と行動を重んじる「男性的」指導者よりも、感情と他人の評価という対面を重んじる「女性的」指導者を重要視する社会的気質がある。日本社会のリーダーは集団の団結を重んじ、和を保つ気質であり、危機にあって集団を強く導く役割ではない。日本は、ある決断が理にかなっていることでも「情」という感情面にかなっていなければ受け入れられない社会であり、ある行動をとるにあたっては、「国民全体の」意志としてのお墨付きを得る必要に迫られる。従って、緊急事態が発生した時には、それがしばしば早急な対応を遅らせる要因となる。
しかし、逆にこの「情」に支配される社会が、他の社会から受け入れられなかった場合、それは時として感情をむきだしにした集団的ヒステリー状態を引き起こす要因となる。よって、日本がかつて経験した攻撃性は、理性的で冷酷な計画によって引き起こされたものではなく、むしろ理性を超えた感情に支配されたものであるという理解が可能である。