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台湾への武器売却:アメリカの妥協と中国の反発

国際戦略研究センター
主任研究員:前田宏子

 9月下旬、アメリカのオバマ政権は、台湾に総額58億ドルに上る武器売却を行うと議会に通告しました。売却される武器に、台湾が要望していた戦闘機F16C/Dが含まれているかが注目されましたが、その点については今回売却が見送られ、現在台湾が保有している初期量産型(旧型)F16A/Bがアップグレードされることになりました。台湾への武器売却に反対する中国への配慮を見せた形ですが、この決定について、米中双方で懸念や不満の声もあがっています。

 アメリカは1979年に中華人民共和国と国交を樹立する際、中華民国(台湾)と断交し、中華民国政府との間で締結していた米華相互防衛条約を破棄しました。かわりに、「台湾関係法」を米国国内法として制定し、台湾防衛のための武器を供与すること、台湾に対する武力行使が起こった際には適切な措置を取ることなどを定めたのです。

 台湾は中国の一部であると主張し、その統一を最大の使命の一つとする中国共産党にとって、このようなアメリカの台湾関与は許し難い行為であり、一貫して内政干渉だと批難してきました。今回も、中国の外務次官は直ちにアメリカに対する強い抗議の意を表明し、米中外相会談で楊外相が武器売却決定の撤回を要求するなど、強い不満を示しています。

 台湾への武器売却問題は米中間で繰り返し発生する摩擦の一つであり、中国の政策担当者にとっても織り込みずみの問題といえます。この問題が発生するたび、中国はアメリカに対抗措置を取り米中関係は悪化しますが、他方で両国はチャンネルを維持し、しばらくすると関係修復に向けて動き出すというのが通例です。今回も、米中双方の政府は両国関係の安定を望んでおり、習近平副主席の訪米を年内に控え、あまり波風を立てないようにするだろうとみる見方がある一方で、気になるのが、最近、中国の反発がこれまでになく強い形で示されるようになっていることです。

 今年1月にアメリカが台湾へ武器供与を行った際、中国はアメリカとの軍事交流を中止し、ゲーツ国防長官(当時)の訪中を突然キャンセルするなど、強硬な姿勢を示しました。1月の武器供与のときも、供与のタイミングなどオバマ政権は中国への配慮を忘れていたわけではありませんが、なおそのような強い反発が示されたことに、アメリカ当局者の間にも当惑が広がりました。

 今回、アメリカ国内でオバマ政権がF16C/Dの売却を見送ったことを非難する意見の一つは、このような最近の中国の傾向を踏まえ、アメリカが中国への配慮や譲歩を示しても中国から期待したような反応が返ってくるわけではないので、中国のペースに乗らず、台湾の防衛強化に努めることが重要だというものです。その他の批判としては、中国の急速な軍備増強により中国優位に傾いている中台軍事バランスのこれ以上の悪化を防ぐため、台湾の防衛力強化を積極的に行うべきという意見、台湾防衛に消極的な姿勢を見せることは、他の同盟国のアメリカに対する信用を損なうという意見などがあります。

 逆に、今回のオバマ政権の決定を、積極的に賛成というより消極的に肯定するものとして、米中関係の重要性を鑑み、中国を刺激するよりは協調の糸口を探り、中国の姿勢を窺うべきという見方があります。また、主流ではありませんが、最近では台湾の戦略的重要性は低下しており、アメリカは台湾への関与を見直すべきという論調も登場するようになっています。逆に、台湾の重要性を重視しつつも今回の武器売却決定を支持するものとして、中国の軍備増強に対し、従来と同じ武器の増強で対抗するのは有効ではなく、戦略・戦術を見直すべきという意見もあります。

 台湾関係法が成立してから約30年間、中台両岸の軍事バランスは長らく台湾優位の状態が続きました。そのような環境下、アメリカは中国による台湾への武力行使を防ぐための保障を与えつつ、中国の台湾攻撃を触発しかねない台湾独立を牽制するという現状維持(status quo)政策を取ってきましたが、その“現状”に変化が生じてきたことが、台湾政策に対するこのような様々な議論を喚起しているといえるでしょう。

 台湾の高国防部部長は、今回の武器売却を受け、「歓迎する」というコメントを行いましたが、同時に、引き続きF16C/Dの売却を求めていく方針も明らかにしています。中台の軍事バランスの変化、アメリカの対台政策の動向は日本の安全保障にとっても決して無関係ではありません。短期的には、来年1月の台湾総統選挙が今後の中台関係にどのような影響を及ぼすかが注目されます。

(2011年10月3日掲載。*無断転載禁止)

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