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首長術
第14回「ポスト洞爺湖サミットへ〜高まる自治体の役割」
――前回、環境を地域政策の最上位概念に置くべきと提案されました。
 繰り返し述べますが、「環境の屋根」を掲げた横断的なヨコ糸政策は国ではなく地域、つまり地方自治体と地域住民の協働によってしか実現できません。ここがポイントです。
 この連載の第12回で、北九州市が2年連続で環境首都日本一に評価されたことを紹介しましたが、その評価尺度をみると興味深いことがわかります。全国から74自治体がエントリーしたのですが、総合で1位となった北九州市は、15の評価項目中7分野でトップでした。「住民とともにチェックする仕組み・情報公開」、「自治体との交流」、「職員の資質・政策能力の向上と環境行政の総合化、予算」、「環境・まちづくり学習」、「まちづくりと一体化した交通政策」、「地球温暖化防止・エネルギー政策」、「ごみの減量化」の7項目です。これに「国際技術協力」や「事業所間のエネルギー相互融通」など独自の取り組みを入れてもらえば、評価はさらに上がると考えています。
 いずれの分野も、既存の行政施策の垣根を低くすることを意識してきたからこそもらえた評価だと思います。ヨコ糸発想を徹底することで、自治体の政策立案能力を向上させる余地はまだまだ大きいと思います。
――あらためて、北九州市が目指す環境首都とは何か説明してもらえますか。
 これまでの北九州市の取り組みは、3つの段階として説明できると思います。
 1つ目は、産業・技術面での「資源循環型社会」の段階です。まず、公害対策として大気汚染や水質汚濁などの防止技術が構築され、後年、環境国際協力の推進に役立ちました。そして、静脈産業という視点に立って、資源循環・リサイクル推進を通じて、長期的な視野で環境産業を育成していったのです。
 2つ目は、都市全体を視野に入れた「循環型経済社会」の段階です。これには、河川や公園の整備による都市アメニティの向上、歴史的建築物の保全や環境共生化、交通渋滞対策とモーダルシフト、緑化などによるヒートアイランド対策などが含まれます。
 3つ目は、自然環境保全や市民活動まで含めた「持続可能な社会」の段階です。自然環境面では、農地・里山・緑地・水辺・干潟など生物多様性を確保できるような地域環境の保全に取り組みました。市民活動とは結局のところ、市民1人ひとりのライフスタイルの問題になります。ごみの発生抑制に始まり、分別・リサイクルの徹底、地産池消やスローライフ、グリーンコンシュマーの推進などにより、市民生活まで巻き込んで、市民意識が変わってこそ持続可能な社会が実現できるのです。
 これらは、北九州市という特性の中で時系列的に展開していったわけですが、現時点から振り返ると、「環境の屋根」の広がりとして鳥瞰できると思います。
――北九州市には体系的に取り組みを進める条件が揃っていたということですね。
 別の視点で説明しますと、環境政策では「5つの財」を活かしてきたと考えています。1つ目は、公害防止やPCB処理などの「負の財」。2つ目は、都市インフラやリサイクル施設群などの「都市財」。3つ目は、学術研究都市の研究機関の立地などの「知の財」。4つめは、環境国際協力によって蓄積した「国際財」。5つ目が、市域の6割を占める「自然財」です。環境政策を具体的に展開するうえでは、「技術」と「人材」に加えて「空間的広がり」を持っていたことが幸いだったと思います。
――環境政策には、広域的な取り組みが求められる場合が多いと思われます。
 環境を優先概念にして効果的な政策に取り組むという時には、市町村ばかりか都道府県という単位も狭すぎます。この点からも、やはり道州のような広域的な地域政府が必要になるでしょう。たとえば、九州7県でそれぞれ森林環境税を導入しています。税収が多いのは福岡県ですが、植林や造林がより必要なのは宮崎県や鹿児島県です。九州を1つにまとめた方が効果的に用いることができるのは明らかでしょう。
――自治体にとっては「環境基本計画」や「環境基本条例」の策定も求められますね。
 北九州市の場合、公害の克服を発端として様々な取り組みを重ねてきた結果を後から帰納的に説明すると先の3段階になるわけです。自治体の環境政策の全体像がある程度見えてきた現時点なら、基本計画や基本条例によって「環境の屋根」を被せていくという演繹的なアプローチも有効でしょう。
 ただし、評価されるべきはあくまでその屋根の下で展開される個々の具体的な施策であるべきです。計画や条例をつくって満足したのでは意味がありません。私がベストプラクティスをみんなで競い合うべきであるというのはそういう意味です。
 北九州市の様々な取り組みに触れてきたのも、自慢したいからではなく、一地方都市の具体的な事例こそが、社会を環境優先に変えていくと考えているからです。したがって、環境首都日本一を決めるコンテストでも、重要なのはトータルの最終順位よりも、評価対象となる個々の施策であると思います。
――「着眼大局、着手小局」という言葉があります。
 まさにその通りです。産業公害、都市型公害、自然破壊などの国内環境問題は、地球温暖化やオゾン層の破壊、酸性雨などの地球環境問題に発展し、さらに、人口爆発や貧困、性差別などの社会環境問題が加わりました。いまや「持続可能な社会」に向けていかに舵を切るかが問われています。そのためには、低炭素社会への移行をはじめとした社会・経済システムの変革が必要で、その前提となるのは私たち一人ひとりの意識改革にほかならないという図式です。グローバル化した問題がふたたび目の前に戻ってきたのです。
 突き詰めれば、「環境の屋根」を掲げる意識改革をオン・ザ・ジョブ・トレーニングで進める場として、地方自治体の役割はますます高まったというのが、2つの地球環境サミットに出席し、洞爺湖サミットを見ての率直な感想です。
 
 5回にわたって「自治体の環境政策」を論じてもらった。「環境の屋根の下でベストプラクティスを競うべし」という提案は、そのまま首長術のテーマでもあるといえよう。
 
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